ディクシット>>コメント 評価コメントリスト     さぶみっしょんさんの評価     ユーザー評価：8点 プレイ数：10回 投稿者：さぶみっしょん | 2010/08/02 11:08 | コメント(0) | トラックバック(0) 以前からタイトルは知っていましたが、今年度のドイツゲーム賞受賞作ということで購入してみました。やはりドイツゲーム賞は動向を知る上での大きな指標となりますしね。 さて『ディクシット』ですが、結論から言ってドイツゲーム賞を受賞するにふさわしい作品だと思います。ルールの完成度や新しさを評価の最たる要因とするならば、確かに『Dixit』は佳作どまりの作品と言えるでしょう。しかし、現在のボードゲーム文化のあり方を考えてみたとき、これ以上に納得の出来るタイトルは無かったように思われます。 ボードゲームを遊ぶ際には、普通ひとつのタイトルのみを遊び続けるというよりは、複数のタイトルを連続して遊ぶことが一般的ですし、またプレイされる状況や機会に応じて、様々の個性を持った多数のタイトルを所有し準備すること自体が広く楽しみ方のひとつとなっています。 その中では、若干の味付けの違いはあれど、同じようなプレイ感やルールの作品は、そこそこの秀作であっても、そこに傑作や定番が既にあった時には、入手直後でも無い限り、日の目を見ないことも多いでしょう。結局プレイされるのはそのお気に入りの1つ2つであって、その他はお蔵を守ることになっていると思います。「興味の惹かれたタイトルはとりあえず購入する」ということが多いボードゲームの愛好者にとってこれは非常にありがちなことなのではないでしょうか。 個人レベルでは無く文化的な視野で見たときも同じことが言えます。近年のドイツボードゲーム文化が発達してきた中で、数々の名作や秀作が重なっていくにつれ、ゲームの形体にある程度の決まりや型が定まってきました。20年ほど以前の数の少ない時代ならまだしも、多数のタイトルが揃った今、似通ったプレイ感、システムの作品を探すことは決して難しいことではありません。ボードゲーム文化が成熟するにつれ、所有するタイトルも何十何百と増えていく中、名作を改編したような亜流には当時感じたほどの鮮烈な印象を受けにくくなっているのも確かでしょう。殊にそれが凡作であった場合は然りです。 成熟したボードゲーム文化の中では、多数ある「ルールが異なってもプレイ感が似ている」ゲームに対し、「ルールは似ていてもプレイ感が異なる」ゲームは極めて希少な価値を生じます。 『ディクシット』の優れた価値というのは、まさにこの点にあります。システム自体は極めて単純ながら、切り口の独自性によってゲームのプレイ感を非常に個性的なものに仕上げているその内容は、例えば、よく出来た『プエルトリコ』の亜流作品などよりも、ずっと魅力に満ちた時間をプレイヤーに与えるでしょう。 勝ち負けがほとんど重要では無く、会話や洞察の機微にこそたのしみが見出されるこのルールは「勝ち」という報奨が無くても十二分にゲームを味わうことが出来るという意味から、とても自由で懐の深い許容性を持っていると言えます。(そのような作品は他にも散見出来ますが、稀であることには変わりません。) またボードゲームの多くで優位に立つことの出来るある種の数学的な思考が、この作品にはまるで役に立たないということが起こり得るというのも、とても興味深いことだと思います。ちょっとした計算やリソースの管理をプレイヤーにしばしば行わさせるボードゲームですが、そういった思考法の得意なプレイヤーでも、こと『ディクシット』となると、気の利いたタイトルやストーリーが思い浮かばず難儀したり、他のみんなが該当のタイトルを当てているのにひとりだけ外してしまったり。そのような光景が見られますが、これも、『ディクシット』の独自のプレイ感が、従来の思考原理に依拠しないことを示す、おもしろい例だと思います。 こなれてはいるものの、しかしどこかで見たようなゲームが多い昨今のボードゲーム市場の中で、独自のプレイ感を打ち出すことに成功した当タイトル。つい押し入れにボードゲームを溜めがちな私にとっても、久しぶりに新鮮な感触をもってプレイすることの出来た作品でした。     この投稿へのトラックバックURL 14321