アブストラクト・クニツィア4

革命 Revolutionアトランテオン Atlanteon
(説明10分 プレイ時間 実時間 15分 記載時間 「革命」30分 「アトランテオン」20ー60分)
RevolutionBoxes.jpg「革命」はアバクスシュピールから1992年に出版されたフランス革命をテーマとしたゲームです。ほとんど知られていませんが限定版も存在します。この時期のアバクスはアブストラクトに力を入れていたようで、木箱のアバクスエクスクルーシブといったシリーズも出していました。クニツィアのアブストラクトでは「ラン」がこのシリーズに入っています。「革命」は、11年後の2003年に「アトランテオン」としてテーマを変えてファンタジーフライトからリメイクが再販されました。数比べの元祖ですが、すべて公開情報なので完全情報(アブストラクト)ゲームです。クニツィアが初めてアブストラクトに数字を用いた作品でもあります。ここでは主に「革命」について説明し、違いがある部分に関してはその都度「アトランテオン」にも触れることにします。

背景
「革命」はフランス革命がテーマです。ジャコバン派と王党派にわかれてパリの市街区域で戦うのです。相手の旗を獲得するか、ベルサイユ、バスティーユ、ノートルダムの3つの建物を支配するか、或はノートルダムを含めた21の市街区のうち、過半数の11を支配することを目指します。

「アトランテオン」ではファンタジー世界が舞台となっています。海底都市アトランテオンを奪おうとする凶暴なマラウダーと、アトランテオンを守ろうとするガーディアンの戦いがテーマです。

コンポーネント
「革命」は当時のアバクスのゲームでは標準的なモノクロの箱です。箱の裏には当時の他のゲームの宣伝が描かれていますが、殆ど今となっては無名のゲームばかりです。開けるとボード、タイル、マーカーが入っており、アブストラクトにしては少々バラエティに富むコンポーネント群です。

ボード1枚:5x5の25マス
タイル25枚:青(王党派)と赤(ジャコバン)のそれぞれに数値0-9が各1枚ずつと旗が1枚で計22枚。さらに建物タイル3枚(ベルサイユ Versailles、バスティーユ Bastille、ノートルダム Notre Dame)
マーカー22個:青と赤、それぞれ11個ずつ

RevolutionBoards.jpgボードは布製(写真左)で、このゲームを嫌う人からは、「瓶の蓋開けに使える」と揶揄されています。なお、限定版ではボードは厚紙でできており(写真中央)、シリアルナンバーが入っています。

タイルは、色がついてプラスチック加工されているもの、白黒で色画用紙で切り離すようになっているものなど、いくつかのバリエーションがあるようです。特にプラスチックでコーティングされているものは、白黒に赤と青のデザインがアクセントになっており見やすいです。数値タイルは数字が四方向に書かれており、影響力を比べる為の視認性はアトランテオンより優れていると思います。マーカーは木製で、自分の支配したタイルを表します。

「アトランテオン」はファンタジーフライトのシルバーラインシリーズの大きさで、ボックスアートはカラフルです。ボードは2枚をジグソーパズルのように繋げて使います(写真右)。中仕切は、シルバーラインシリーズ共通で残念ながら非常に使い勝手が悪いものとなっています。

「アトランテオン」では以下の通りに名称が変わっています。
青(王党派)と赤(ジャコバン)の代わりに青(ガーディアン)と白(マラウダー)。
旗タイルの代わりに王タイル。
建物タイルの代わりに塔タイル(ベルサイユとバスティーユは白い塔、ノートルダムは黒い塔)。

絵柄もファンタジー世界のものとなっていますが、ガーディアンもマラウダーも全く同じ絵です。プレイヤーカラーが青と白なのに対し、タイルの色は濃い青と薄い青なのが少しわかりずらいです。また数値は正方形の一隅にしか書かれていないので、「革命」に比べると視認性が悪く、さらに6と9は向きが異なるだけなので紛らわしいです。「革命」で付いていたプレイヤーを表すタイルはなく、代わりに塔タイルに対応する塔コマが3つ(白2つ、黒1つ)付いています。これは後述するルール変更とも関係しています。

RevolutionPieces.jpgルール概要
1人が王党派(青)、もう1人がジャコバン(赤)になり、自分の色のタイル11枚(数値0-9と旗)を表向きにして前に置きます。3枚の建物タイルは表向きにして脇に置きます。ボードには何も置かず、王党派(青)のプレイヤーからゲームを始めます。(注:アトランテオンでも先手は青のプレイヤーです。)

最初の3手番(つまり王党派(青)の2手番目)までは建物タイルを1枚ずつ置かなくてはなりません。場所は任意ですが、建物同士が縦横で隣り合ってはなりません(バリアントルール:縦横斜めで隣り合ってはならない、これがオリジナルルールです。アトランテオンにはこのバリアントの記述はありません。)

それ以降の手番(ジャコバン(赤)プレイヤーの2手番目)からは自分のタイル1枚をボードの好きな場所に置きます。数値タイルはそのタイル自身と縦横隣りのタイルにその数値だけ影響力を及ぼします。つまりボードの中央9マスに置かれたタイルは5つのタイルに、辺に置かれたタイルは4つのタイルに、角に置かれたタイルは3つのタイルに影響力を及ぼすのです。

あるタイルの縦横隣りがすべて他のタイルで埋まると決算です。囲まれたタイルに対しての影響力を比べて、手番プレイヤーの影響力がより大きければ、そのタイルを支配した事となり、手番プレイヤーは自分のマーカーを置きます。影響力はそのタイル自身とその縦横隣りのタイルの数値の合計となります。もし影響力が同値であればそのタイルの所有者が支配したことになります。ここで気をつけたいのは相手に支配されたタイルでも影響力は変わらずに持ち続けるというところです。(注:「革命」ではこのようにマーカーを置けるのは自分の手番終了時だけです。「アトランテオン」では相手プレイヤーの手番終了時でもマーカーを置くことができます)

さらに、縦横が全て埋まらる前でも、相手の残りのタイルなどから手番プレイヤーの影響力が必ず相手より大きくなる事が証明されれば、そのタイルを支配したことになり手番プレイヤーはマーカーを置きます。つまり相手がどんなタイルを置いても勝てないという事が示せれば良いのです。(注:このルールは「アトランテオン」ではバリアントとなっています。このバリアントを使う時には「アトランテオン」のルールに従う為に、相手プレイヤーの手番終了時でもマーカーを置けます)

旗と建物も同様にして支配しますが、以下の点が異なります。なお[括弧内]はアトランテオンで使われている用語です。

旗[王]:数値タイル同様に支配します。相手の旗を支配した場合は勝利となりゲーム終了です。自分の旗を支配してもマーカーは置きません。

ベルサイユ、バスティーユ[白の塔]:支配してもマーカーを置きませんが、どちらが支配しているかはボードを見て判断できます。影響力の大きいプレイヤーがそのタイルを支配した事になります。影響力が同値の場合にはどちらのプレイヤーも支配できません。(注:アトランテオンでは最後に隣接するタイルを置かなかったプレイヤーが支配します。これを示すために塔のタイルの上にはあらかじめ塔のコマを置いておき、支配者が塔コマを獲得して曖昧さをなくすようになっています。)

ノートルダム[黒の塔]:通常とは逆に、影響力が最も少ないプレイヤーが支配して、マーカーを置きます。影響力が同値のときには最後に隣接するタイルを置かなかったプレイヤーが支配します。(注:アトランテオンでは支配したプレイヤーが黒の塔コマを獲得します。またマーカーを置けることを示すようにタイルの中央部分が白丸になっているのは親切です)

ゲームの目的は以下の3つのうち1つを達成する事です。
1:相手の旗タイル[王タイル]を支配する
2:自分の旗[王]がボード上にプレイされており、かつ、自分のマーカーすべて(11個)をボード上のタイルに置く。つまり数字タイルとノートルダム[黒の塔]の21枚のうち過半数の支配を確定させる。
3:建物タイル[塔タイル]3枚をすべて支配する。
もし両方のプレイヤーが同時に勝利条件を満たした場合には引き分けとなります。
(注:アトランテオンでは自分の手番終了時でないと勝つ事ができません。)

ルールの違いのまとめ
1:開始時の3つの建物の配置:
「革命」では斜め隣に置けないというバリアントがある。
2:マーカーを置く条件:
「革命」では縦横隣りが埋まる前でも証明できれば良い。
「アトランテオン」では縦横隣りが全て埋まったとき。
(「革命」のルールは「アトランテオン」ではバリアント扱い)
3:マーカーを置くタイミング:
「革命」では自分の手番。
「アトランテオン」では双方の手番。
4:ベルサイユ/バスティーユ[白の塔]で影響力が同値のときの支配:
「革命」では誰の支配下にも置かれない。
「アトランテオン」では最後に隣のタイルを置かなかったプレイヤーが支配し、塔のコマを獲得する。
5:勝利のタイミング:
「革命」では双方の手番終了時。
「アトランテオン」では自分の手番終了時のみ。

Revolution.JPG感想
クニツィアが得意とする数字比べの元祖とも言えるゲームです。10回以上遊びましたが、3つの勝利条件がうまい具合に絡み合っており、その3つのどの勝ち方も体験したことがあります。アブストラクトにしてはルールが少し煩雑なので、きちんと確認することが大切です。ギークなどでみると、間違えてプレイされていることが多く、とくにマーカーを置けるタイルは数値タイルとノートルダム[黒の塔]だけだというのはしっかり覚えておいた方が良いでしょう。このノートルダム[黒の塔]はマーカーを置くことができ、さらに3つの建物[塔]の1つに数えられるので大切です。

欲を言えば少々地味な印象があります。相手のタイルを支配してもそのタイルの数値は相手のものとして数えるのがちょっとわかりずらいです。この辺りは、数値タイルと支配するものを完全に分けたサムライなどのほうがわかりやすいでしょう。

数字比べに共通するジレンマは十分楽しめます。特にどこで大きな数値を使うか、どのように相手が既に使った数字の隙をついていくか、など何度か遊ぶ価値はあるゲームです。

Atlanteon.jpg考察
プレイヤー間の有利不利を軽減し、また毎回違うゲームにすることを目的とした建物3つを置くルールは良いと思います。同種の手法はギプフシリーズのデュボンを始めカテドラルやサムライなどに用いられています。ノートルダムや旗などのアクセントもあり、数比べのゲームとしては一定の完成度があると思います。

「アトランテオン」では「革命」で問題があったルールを改善する試みが見られますが、改悪になってしまったと思われる部分もままあります。

「革命」のルールではベルサイユやバスティーユは影響力が同じだと誰の支配下にも置かれないとなっていますが、これだと相手に既に建物を1つ支配されている場合、もうひとつの建物は同値で誰のものでもなくなることが多いです(自分が取るメリットは無いので)。そのあたりの欠点はアトランテオンで解消されているのは好ましい部分です。また塔のコマを導入することにより勝利条件の一つが視覚的に分かり易くなりました。

「アトランテオン」のルールの最大の問題点は、自分の手番の終わりでしか勝てないという事です。これは引き分けをなくすために導入されたと思われますが、実は先手の青のプレイヤーは最後の相手による配置では勝てないのでどちらも勝利条件を満たさないということが起こりえます。さらに最後の相手による配置では勝てないというのはかなり不利だということがボードゲームギークのフォーラムで指摘されているのです。この辺りは英訳の不備なのかもしれないし、ルールの推敲を怠っているのかもしれません。そうだとしたら少々残念です。

マーカーを置く条件とタイミングに関するルールは好みの問題で、ゲームとして影響があるのは双方のプレイヤーが同時に勝利条件を満たす時だけです。とはいっても双方がマーカーを11個置くのは不可能なので、可能性としては、1人のプレイヤーの3つの建物[塔]の支配、または相手の旗[王]の支配が、もう1人のプレイヤーのマーカーを11個置くことと同時に発生した時だけです。個人的には、マーカーを置く条件は「革命」のルールで、置くタイミングは「アトランテオン」のルールが良いと思います。

結論
ルールに多少の不備があるとはいえ、十分に悩ましいゲームです。特にクニツィアの数字比べが好きならば一度は遊ぶ価値があると思います。この数字比べのシステムは、以降の様々なゲームに影響を与えています。特に、ストーンヘンジ/メガリス、ショッテントッテン/バトルライン、サムライ、そしてサムライカードゲームなどへの影響は絶大です。サムライでは運の要素がありすぎると思う方は、是非「革命/アトランテオン」を遊んでみて欲しいと思います。じりじりと痺れるようなジレンマが味わえると思います。

SHARE